展示の概要

北海道大学の起源は、日本最初期の近代的大学として明治9年(1876)に設立された札幌農学校に遡る。欧米の文化と科学技術を導入し、外国人教師の英語による授業を行った札幌農学校は、当初から多様な世界にその精神を開いていた。また、農業専門家の養成にとどまらず、豊かな人間性と高い知性を兼ね備え、広い教養を身につけた人間の育成を図った。このことは、思想・文学をはじめ、人文社会分野における優れた人材を次々に輩出したことにも示されている。

今回の展示では、英語英文学の分野に注目し、札幌農学校の草創期を中心に、北海道大学における英語教育を取り上げる。新渡戸稲造や内村鑑三をはじめ多くの優れた英学者たちを輩出した札幌農学校は、日本英学史の上でも特異な学校と言われている。アメリカの大学をモデルにしたカリキュラムによって外国人教師が英語で行う授業を受け、洋書で勉強した当時の生徒たちは、まさに日本にいながらにして外国の大学で学んでいたようなものであった。

展示は、①札幌農学校初期の英語教育、②北大卒業生たちの英語英文学分野での活躍、③現在の図書館での英語学習支援サービス、の3つのテーマから構成されている。

① 札幌農学校初期の英語教育

当時のカリキュラム、使われていた教科書、外国人教師(クラーク、ペンハロー、カッター)といった切り口から、生徒たちを取り巻いていた英語教育の環境を紹介する。また、授業後の生徒たちの活動から、課業時間外にも英語習得の機会が豊富にあったことを示す。

札幌農学校での学習に必要不可欠だった英語には、多様な側面があった。大きく分けると下記の2種類になるであろうが、両者は独立して完結するものではなく、互いに相乗効果をもたらしながら生徒たちの英語力を向上させていったと考えられる。

・欧米の学問を学ぶための手段としての英語

・英語学、英文学など学問の1分野としての英語(さらに作文、演説などのコミュニケーション系と文学系に分けられる)

② 北大卒業生たちの英語英文学分野での活躍

英語英文学の分野に貢献した4人の卒業生(新渡戸稲造、内村鑑三、有島武郎、武信由太郎)を取り上げる。

新渡戸、内村は英語による著作を残しており、ともに日本3大英文家に数えられている。展示では、新渡戸の英語学習論、内村の英語学者としての顔に注目する。有島は小説家として知られているが、東北帝国大学農科大学となった母校で英語を教えていたほか、訳業もある。武信は英文紙、英文年鑑の発行などに関わり、実用英語の分野で活躍した人物である。展示では、代表的な業績の1つである和英辞典の編纂に焦点を当てて紹介する。

③ 現在の図書館での英語学習支援サービス

視点を現代に移すと、単なる英語の知識だけでなく、コミュニケーション能力や異文化理解力を備えた人材の育成を目指す動きが加速している。附属図書館は大志を抱いて学ぶ北大生を支援するため、英語学習に役立つサービスや施設を提供している。その概要を紹介する。

グローバル化の時代と言われる今日、英語を通して身につけた学問や教養、コミュニケーション能力をもって新しい時代を切り拓いた先人たちの姿から、私たちは多くを学ぶことができるのではないだろうか。